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ナバト 飛鳥-2
暗くなるにつれ、森は姿を変えてゆく。普通の木々に混ざって生えていた妙な形状の細い木は、景色と反比例するように少しずつ柔らかな光を灯しはじめた。 「……これって街灯? それとも木?」 「たぶんそういう種類の木なんじゃないか?...
宮間 怜一
3月9日
ナバト 飛鳥-1
静かな雨が降っている。リンが魔法で傘を作ってくれて、相合傘しながら森の中を進んでいた。 「便利だね。傘」 「でしょ。飛鳥は魔法使える?」 「い、一応」 「どんな?」 「えーとそのー……み、見たことある魔法を、真似できる、みたいな?」 「へえ! 器用だね」 「そう?」...
宮間 怜一
3月9日
アタシ恋が知りたいの(1)
ミ「ねえねえ、琳って好きなコいるの?」 琳「んー? 今はフリーだよ」 ミ「今は!?」 琳「昔は付き合ってる人いたよ」 ミ「あらー♡ …あのー、訊いていいのかしら」 琳「女の人」 ミ「あっ、そうなのね!」 琳「全然いいんだけど、やっぱりね、めちゃくちゃ訊かれるんだよね。性別と...
宮間 怜一
2024年7月7日
クベース 飛鳥-4
船に乗るなんて、家族で湖のボートに乗ったとき以来だと思う。 と言っても、それは本当に家族単位でしか乗れない小さいもので、こういった何十人も乗れる客船とは全くの別物なのだけど。 「この船で、向こう岸の街まで?」 リンを見る。旅にふさわしい動きやすそうな服装に、昨日貰ったア...
宮間 怜一
2023年3月5日
クベース 飛鳥-3
翌日。春間近の晴れ空は色が薄い。 ここの通りには服飾品や武器防具の店が並んでいるのだと聞いた。今日は丸一日かけて、あたしの旅支度を手伝ってくれるらしい。 あたしはと言うと、当然と言ってしまうと悪いのだが、とにかくこっちの世界のお金がない。諸々の資金がリンとチェリッシュの...
宮間 怜一
2023年3月5日
クベース 飛鳥-2
『異世界』に来る前のあたしはどうだったかというと、特別なことの何もない普通の中学生だった。 他の誰かほど頭はよくないし、他の誰かほど運動もできないし、話が上手なわけでも可愛いわけでもない。それでいて他の誰かほど、それらができなさすぎるというわけでもない。テストの点数はいつ...
宮間 怜一
2023年3月5日
クベース 飛鳥-1
夢の始まりは夜の始まりだ。 だからあたしの物語はいつもこの夕景色から始まる。 視界にあるのは太陽が沈みきったばかりの空。藍とオレンジ色で彩られた海。あたしは港にぼんやり立っている。 潮の香り。酔ったように浮つく身体。振り返れば西洋風の街並みに街燈が灯り始めている。星の...
宮間 怜一
2023年3月5日
無欲な男は寂しがり
「おや、ナイフだ」 武器の手入れをしていると新しい雇い主が覗いてきた。 「というよりは短剣かな?」 「元は双剣でな、子供の頃に買ってもらって、もう一本は年子の兄が持っている」 「へえ、いいね。でも普段使うのは槍だろう? 使い分けるの?」...
宮間 怜一
2023年2月23日
最後の旅のはじめの夜
夢の中でも夜は来る。 船の軋む音。波の音。まだ二人だけの客室は静かだ。 これから、長い旅になる。あと五人もの仲間を迎えて、色々な街を巡って、修学旅行みたいな毎日を過ごすんだ。 そうして旅路の果てに、憎き悪役を倒したらもう終わり。あたしは現実世界に戻って、何もなかったみたいに...
宮間 怜一
2023年2月18日
夢見月の恋人
「……琳」 「うん?」 「まだ起きてる?」 「起きてるよ」 「……そっち行ってもいい?」 「そっち?」 琳は寝返りをうってこちらを向き、自分の布団を持ち上げた。 「ここ?」 許されるままに琳の懐にすっぽりと収まる形になる。布団の中は琳の体温が移っていて暖かい。琳は背も高...
宮間 怜一
2020年10月21日
写真とケータイ
露店で売っていた菓子を口にしながら街を歩く。談笑する六人の後ろ姿。 たぶん今日の夕方くらいの写真だ。 シャワーを浴びて部屋に戻ると、そんな画像を映した小さな機械を飛鳥が眺めていた。 「それ、写真機だったの? 電話だと思ってた」...
宮間 怜一
2017年6月1日
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