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お前の旅の目的は(4)

  • 宮間 怜一
  • 6月3日
  • 読了時間: 2分

「へぇ、そういう区別なんだ」

「……お前は、どういう定義だと思っていた?」

「うーん、プロかアマか、かな? それをメインで仕事にしている人が傭われ」

「じゃあ旅人の本業は?」

「旅だろう」

「そういうことだ。傭兵(おれたち)は依頼人の旅路に付き添い、時に道を教え、時に障碍を取り除く。『旅の目的』があるのは依頼をしてきた旅人で、俺たち自身に行き先や目的はない」

「じゃあその前は? 傭われになる前、貴方は何だった?」

「……家を離れてから俺は、こっちの定義(いみ)ではずっと傭兵だった。それより前は、ただの子供だ」

「どうして家を離れたの」

「……くだらない理由だよ」

「ふーん」

「お前の旅の目的は?」

「私も莫迦みたいな理由だよ。一緒だね」

「……」

「表向きの話をするなら、当面は飛鳥の旅のサポートが私の行動の軸になるかな」

「飛鳥とは長いのか?」

「まだそんなに。でも、境遇が近いんだ」

「境遇?」

「『異世界』って知ってる?」

「いや」

「船でも飛空便でも辿りつけない、遠い土地だ。あの子はそこからひとり迷い込んだ」

「……」

「私も大体似たようなものでね。その場の人が誰も知らない、僻地から来たんだ。こっちは空の便で行けるけど。

 ──私たちが異世界なる場所を知らないように、あの子の世界も、私たちの世界を知らない。魔物がいないから戦い方もわからない。文化も常識も異なる世界で、あの年の女の子がひとりぼっち。手を差し伸べるのは、普通だろう?」

「……そうだな」

「うん。だからそういうことにしといてよ。幸い、私の旅は急ぎじゃないんだ。後回しにしても大差ないよ」

「そういうものか……」

「そっちの番だよ」

「は?」

「聞いてばかりじゃないか。他人の中身に触れたいのなら、自分も少しは見せるべきだね」

「……」

「お題を変えてもいいよ。──貴方が、旅の目的を訊くのは何故?」



 あの旅人さんは、元気かしら。

 いいえ、自分は『旅人』ではなくて『傭われ』なのだと言っていたわ。

 旅人には行きたい場所や逢いたい人、そういった旅の目的が必ずあるけど、自分にはないのだと。

 息子を連れて里帰りするときに、護衛をしてもらった男の子。

 傭われとは何か、静かに聞かせてくれたときの彼は、背筋がすっと伸びていて、自分が仕事にしているものに誇りがあるように見えた。

 その一方で、進行方向をただ見据えるその瞳には、誰もが心のどこかに抱えているような、孤独がうっすら透けて見えた。

 『もうすぐ兄ちゃんになるんだ』とはしゃぐ息子に向けていた、穏やかな表情を思い出す。


 ねえ、『旅人』さん。

 あなたは誰かとの旅のなかで、ひとに触れていたいんじゃないかしら。

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