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ナバト 飛鳥-2
暗くなるにつれ、森は姿を変えてゆく。普通の木々に混ざって生えていた妙な形状の細い木は、景色と反比例するように少しずつ柔らかな光を灯しはじめた。 「……これって街灯? それとも木?」 「たぶんそういう種類の木なんじゃないか? 確かそのまんま街燈樹(がいとうじゅ)って名前だったはず。加工してランプや武器にしたものを見た覚えがあるよ」 「魔法の杖とか?」 「そうそう」 なるほど、そういう視点で見ると、この変な木も案外面白いデザインかもしれない。この先で出会う仲間のひとりに、魔法使いの娘がいる。せっかくなら、あの子には可愛い武器を持たせてあげたいものだ。 とはいえ、今はまだあの子のことを考えている場合ではない。まずはミスカだ。 よほどのことがない限り、彼はあたしたちに協力してくれるとは思うのだが、リンやチェリッシュたちの挙動を考えるとミスカもイレギュラーな反応を示してくるかもしれない。なんだか緊張してきた。ミスカはちゃんとあたしを信用してくれるだろうか。少し怖い。たぶん露骨に媚を売ったり無理やりシナリオ通りに話を進めようとするのはマイナスになると思う
2025年3月9日


ナバト 有羽-2
「なんだそれ」 「よくあるでしょこういう水晶玉。今でない時間や、この場でない場所を遠隔で覗ける感じの。……宙に浮く画面とかの方が今っぽいかな?」 「いやどっちでもいいけど」 どうやらこいつは気遣いというものを覚えたらしい。俺がいつまで経っても外に出れないことに対して文句を言い続けていたから、外の景色を見られる手段としてこの水晶玉を引っ張り出してきたようだった。 水晶玉に映し出されているのは森の中。霧雨で遠くの方はふんわりと霞んで見える。水彩で描かれた絵本のような景色だ。普通の草木に混じっておおよそ生態の予想つかない歪んだ木や変な実のなった木が生えている辺り、夢の中らしいデタラメさを感じる。 卒業式以来、数日ぶりに見た天峰は、別段普段と変わらない様子だった。上着の裾から覗くスカートや装飾を見るに多少ファンタジーらしい華やかな服は着ているのだろうが、そのくらいだ。 「それでこちらが飛鳥ちゃんのお仲間ですね」 「ほう」 シュロの声に呼応するように、カメラが移動する。なるほど、現実の中高生にはまずいない系統のイケメンだ。くっきりとした目鼻立ち。ひ
2025年3月9日


ナバト 飛鳥-1
静かな雨が降っている。リンが魔法で傘を作ってくれて、相合傘しながら森の中を進んでいた。 「便利だね。傘」 「でしょ。飛鳥は魔法使える?」 「い、一応」 「どんな?」 「えーとそのー……み、見たことある魔法を、真似できる、みたいな?」 「へえ! 器用だね」 「そう?」 「大抵みんなひとつの属性しか使えないんだ。『模倣』も確かに単一の能力なんだろうけど、相当特殊だと思うよ」 この申告は厳密には嘘だったりする。実際は、すべての魔法を使えるようにしてあるのだ。 なんでもあたしの思い通りになるこの夢世界の中では、あたし自身の設定だって好き放題にできる。アイテムやお金だって、ほとんど持っていないていで過ごしているけど、本当はやろうと思えば何もない場所からいくらでも出せる。むしろ何でもできるのはデフォルトの状態だ。ただ流石に身の丈に合わないというか、ただでさえ現実人というイレギュラーな存在なのに、そのうえ変に強い力を持っているといくらなんでも怪しすぎるし、自分を最強無敵に設定したみたいでダサいので、表向きにはこうやって過少報告というものをしているのだ。..
2025年3月9日


ナバト 有羽-1
「あのさあ、なんでまたこの部屋なん?」 前回あれからどうなったかを、読者諸賢にはご説明しよう。 シュロ・マリアンというこの変な男は、この物語における倒すべき黒幕・ラスボスとしての役目を全うすることを望んでいるらしい。ところがその意気込みとは裏腹に、この寝呆け野郎には服装から何から、およそ悪役らしい要素がどこにも見当たらない有り様だった。それをうっかりバカ正直に指摘してしまった俺は、どうもこいつにキャラデザイン分野において自分より上手の存在だとみなされたらしく、キャラクリ用の不思議装置を手渡され、『悪役』のディレクションを一任されたのだ。 このキャラクリ装置が予想外に扱いやすかったのが悪い。 俺の想定としては、ドンキのハロウィン衣装なみに安っぽい適当な魔王をでっちあげてお茶を濁し、とっとと別の話題に移るつもりだった。そのはずだったのだが、この装置にざざっと描いた服や装飾が、まさしく脳から直接出力したかのようにいい感じに具現化され、あいつというマネキンに被さるのが面白すぎて、興が乗ってしまったのだ。 まず角を生やした。よくある山羊だか羊だか
2025年3月9日


クベース 幕間
「僕の名前はシュロ・マリアン。この世界を滅ぼさんとする魔王さ」 この常に眠そうなツラを最大限キリッとさせて奴が放った渾身の決め台詞に対し、『そんな全身ユニクロみてえな恰好した魔王がいるか』とうっかりバッチリツッコミを入れてしまった結果、魔王陛下はすっかりしょげてしまわれた。 先ほどまでのこいつの話をまとめるとすると? ここは眠りにつくことでアクセスできる夢の世界で? それも俺ではなくクラスメイトの天峰の夢の中で? 「天峰の、天峰による、天峰のための夢世界、みたいな感じなんだっけ?」 「大体そんな感じ~……世界観、登場人物、ストーリー、すべて飛鳥ちゃんの思いのままというわけ」 あーやっちまった。あからさまにテンションが低い。こういう誰に訊かれなくても喋り続ける事情通ぶった人間から情報を搾れるだけ搾り取るのが今時のセオリーなのに。 ぶっちゃけ自分の状況がわからなすぎる。地下通路みたいな謎の道を通って、そっから直通でこの建物に入り、こいつの自室と思われるこの窓のない部屋に案内され、常人か狂人かもわからんこいつの発言しか情報源がないのはまずい。異
2024年12月11日


クベース 飛鳥-4
船に乗るなんて、家族で湖のボートに乗ったとき以来だと思う。 と言っても、それは本当に家族単位でしか乗れない小さいもので、こういった何十人も乗れる客船とは全くの別物なのだけど。 「この船で、向こう岸の街まで?」 リンを見る。旅にふさわしい動きやすそうな服装に、昨日貰ったアクセサリーを余すことなく身につけたその姿は、お忍びの旅を始めた高貴な身分の人、といった雰囲気だ。 「うん、そこから東へ進んで、ナバトという小さい町を経由するのがいいと思う」 次の町の名前はナバト。そこに二人目の仲間がいる。 あたしが創った夢の世界。あたしが創った旅の仲間(キャラクター)。知ってると言ったら未来予知になってしまうから話せない、あたしの目的。 それは、あいつを倒すこと。あたしだけでは倒せないあいつを、皆と一緒に。 あたしは完璧に生きてみせる。誰のことも傷つけずに、ハッピーエンドを迎えてみせる。 小さい光が目に飛び込んだ。 星の指輪が朝日を反射している。 旅の御守り。『何もないように』ではなく、『何かあっても大丈夫でありますように』。 小さな祈りは、あ
2023年3月5日


クベース 有羽-2
「天峰ってあの天峰? 元同じクラスで、ギャルでもオタクでもなく、特筆することの特にない、どこにでもいるようなあの天峰?」 「うん、その天峰飛鳥ちゃん」 天峰飛鳥という人間に対する印象は、いま語った通りだ。普通オブ普通。夢の中だなんだと言っていたが、こんなファンタジー超常現象を引き起こせるような人間には到底思えない。 「それは……何? この謎空間でお早い同窓会でも開くわけ?」 「いや? 呼んだのは君ひとり」 「何故に」 「仲良いでしょ?」 「いや全然。グループワークでもない限り全く喋らん」 「あれ? 思い違いだったかな。まぁいいや」 まぁいいやとはなんだまぁいいやとは。こちとら異世界トリップしとんのだぞ。 つまるところ俺は天峰と親しい相手だと勘違いされてここに連れてこられたのか? 何を以てそう思ったんだ。つーか天峰の何なんだこいつは。何で勝手にカップリングにされてるわけ? 俺と天峰の接点って何? なんか一回ぐらい隣の席になったような覚えはあるしその時くらいは多少会話したような気もしないでもないけど。いやそもそもこの男の思考回路に理屈というもの
2023年3月5日


クベース 飛鳥-3
翌日。春間近の晴れ空は色が薄い。 ここの通りには服飾品や武器防具の店が並んでいるのだと聞いた。今日は丸一日かけて、あたしの旅支度を手伝ってくれるらしい。 あたしはと言うと、当然と言ってしまうと悪いのだが、とにかくこっちの世界のお金がない。諸々の資金がリンとチェリッシュのポケットマネーで賄われることになってしまい、ヒモになった気分を味わっていた。 「リン! もう一通り装備は揃ったかい?」 「旅に出るんだってね。そんじゃ、これはおまけ」 「おっと連れがいんのかい? そいつを早く言ってくれよ」 街の皆がリンをよく見知っているようで、行く先々で店員や居合わせた客に声をかけられている。 買い物中、会う人々がリンに腕輪やペンダントを手渡していた。時々ついでであたしにもくれる。何だろう? 訊く暇もなくあたしたちは市場の賑わいに潜っていった。 「リン」 ひととおりの買い出しが終わった頃、声をかけてきたのは高校生か大学生くらいの女の人だった。髪も肌も淡い色をしていて、手足は華奢。西洋のお人形みたいな人だ。 「買い出しは済んだの」 「うん、大体。今はもう寄
2023年3月5日


クベース 飛鳥-2
『異世界』に来る前のあたしはどうだったかというと、特別なことの何もない普通の中学生だった。 他の誰かほど頭はよくないし、他の誰かほど運動もできないし、話が上手なわけでも可愛いわけでもない。それでいて他の誰かほど、それらができなさすぎるというわけでもない。テストの点数はいつも平均前後で、いつもより高い点がとれたと思ったときは平均自体が高くなっているから変わらずあたしは平均点。だからといって、どうせ努力しても変わらないからと勉強を投げ出すこともできない、そういう諦めの悪さだけは人一倍。どこにでもいる、まさに平凡な、モブのあたし。こないだ中学を卒業して、来月から高校生の、何にも属していないあたし。 異世界に来たあたしは、中学のものとも高校のものとも違うセーラー服を着ていた。これであまり変な服を着せられても困るけど、こうして現実世界から離れてなお『あたしだけの』とか『特別な』みたいなものって存在しないんだと思うとつまらない感じがした。 「元気があったら下の階でお茶でもどうかな。いろいろ教えてあげるよ」 金の瞳のこの人はリンというらしい。リンが名前で
2023年3月5日


クベース 有羽-1
時を同じくして俺は、妙な男の手によって俗に言う『異世界』なる場所に拉致されていた。 誓って言うが、俺はトラックに轢かれるような場所にはいなかった。昨今のラノベあるあるの異世界転生をするようなフラグは何一つ立てていない。俺は先日晴れて市立夢見ヶ丘中学校を卒業し、高校に入学するまでの長く短い春休みを全力で謳歌すべくポテチを食いながら漫画を読んでいるところだったのだ。 「実は夢の中なんだよね」 それを崩したのはこの男。 外見の描写を試みるが、これといってアニメ映えするほどの派手な見た目はしていない。髪と瞳が明るいからかろうじて純正の日本人でないように見えはするが、ファンタジーものとしてはあまりに服装が地味すぎる。なんなら大学生くらいだったらこのくらいの髪色にしている人間も普通にいる気がしてきた。 まあこいつの国籍はともかくとして、問題はこいつの登場シーンだ。 ちょっと混乱していていまいちちゃんと憶えていないのだが、こいつはそこそこ高い階にあるはずの俺の家にぬるっと不法侵入しつつ声をかけてきて、俺のクローゼットを勝手に異世界の連絡通路につくりか
2023年3月5日


クベース 飛鳥-1
夢の始まりは夜の始まりだ。 だからあたしの物語はいつもこの夕景色から始まる。 視界にあるのは太陽が沈みきったばかりの空。藍とオレンジ色で彩られた海。あたしは港にぼんやり立っている。 潮の香り。酔ったように浮つく身体。振り返れば西洋風の街並みに街燈が灯り始めている。星のように瞬く街灯りの下にいた、これまた星のような金色の瞳をした人と目が合った。その人に駆け寄ろうとしてあたしは、 * 夢を見ていると、たまに展開が飛んで全然脈絡のない場面転換が行われることがある。 意識がぼんやりとしていて現実味がない。さっきまでこの目に映っていた星や街燈はどこにもなく、波の音は壁を挟んで遠く聴こえる。ここは屋内。あたしはベッドに寝かされていたようだ。 視線を横に移すと、ベッドのすぐそばで誰かが本を読んでいた。本を支える指が長い。さらさらストレートの髪の隙間から、虎のような金色の瞳が見える。 金色の目はあたしの視線に気が付くと、髪を耳にかけてこちらを覗き込んできた。 「目が覚めた?」 低い声だった。優しくて懐かしくなる、あたたかい声。そんな声が返事を
2023年3月5日
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