露店で売っていた菓子を口にしながら街を歩く。談笑する六人の後ろ姿。
たぶん今日の夕方くらいの写真だ。
シャワーを浴びて部屋に戻ると、そんな画像を映した小さな機械を飛鳥が眺めていた。
「それ、写真機だったの? 電話だと思ってた」
思ったことをそのまま口に出すと、どうやら驚かせてしまったらしく、彼女は飛び上がったあとゆっくりとこちらを振り返った。
誰も気付かないうちにかなりの枚数を撮られていたようで、写真フォルダには私たちの何気ないひとときを収めたものが何十枚も保存されていた。そして、ふと思う。
「これシャッターは?」
「下の丸い奴。あ、そっちホームボタン。じゃなくて画面の、うん、それ」
聞き終わって一拍。そっとケータイをとりあげる。裏をこちらに向けて右腕を伸ばす。左手で飛鳥の肩を引き寄せる。
ぱしゃりと効果音が鳴った。
引き寄せられた体勢のまま、飛鳥は目をぱちくりさせてこちらを見上げている。
「なんで?」
「ん? ああ、さっきの奴、飛鳥がいないなと思ったから」
撮ってる側だから当たり前だけど、と加える。ぽかんとしていた顔が、しばらくして曇った。
「……意味、ないよ」
言葉は聞き取れたが、意図が読めずに聞き返す。
「意味ないよ、撮ったって。いくら撮ったって、向こうに帰ったら一枚も残んないんだから」
「じゃあどうしてこんなに撮ってるの?」
笑顔でそう言うと、言葉に詰まったらしく、顔を背けて膝を抱えた。
少し待ってから、撮った写真を確認する方法を尋ねると、その体勢のまま操作を教えてくれた。
「ぶれてる」
「……琳さっきインカメじゃなくて普通のカメラで撮った?」
「インカメって?」
「……」
「もっかい撮りたいんだけどいい?」
「……いいけどさ」
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