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ナバト 飛鳥-2
暗くなるにつれ、森は姿を変えてゆく。普通の木々に混ざって生えていた妙な形状の細い木は、景色と反比例するように少しずつ柔らかな光を灯しはじめた。 「……これって街灯? それとも木?」 「たぶんそういう種類の木なんじゃないか?...
宮間 怜一
3月9日
ナバト 飛鳥-1
静かな雨が降っている。リンが魔法で傘を作ってくれて、相合傘しながら森の中を進んでいた。 「便利だね。傘」 「でしょ。飛鳥は魔法使える?」 「い、一応」 「どんな?」 「えーとそのー……み、見たことある魔法を、真似できる、みたいな?」 「へえ! 器用だね」 「そう?」...
宮間 怜一
3月9日
回想 第n-1試行
ミスカはあたしが創った登場人物の中では一番年上で、物静かで、いつもあたしや他の仲間の話を聞くばかりで自分の話は滅多にしない人だった。今までの試行(ループ)の中でももめたりぶつかり合ったことがほとんどなく、言ってしまえば一番友達として浅く、よく知らない、そんな人だった。...
宮間 怜一
2024年12月1日
自分を殺そうとした君に
あたしの旅の目的は、『自分』を倒すこと。 『今まで散々試したじゃん』 『首を絞めようが、凶器を振るおうが、君は僕を殺せない』 『今更そんな何の変哲もないナイフで、僕をどうする気?』 『僕のことが、殺したいほど憎いのは知ってるよ。でもさあ、どうやって倒すの?...
宮間 怜一
2024年5月8日
はじめのはなし
少女が望んだのは『主人公』だった。 どこをとっても他人より優っておらずどこをとっても他人ほど劣っていない平凡な自分が、 主役になれる世界を望んだ。 かくして『世界』は少女の願いを聞き、舞台を用意した。 夢の中、少女には三人の友人がいた。三人が羨むような、素敵な恋人も。...
宮間 怜一
2023年3月5日
クベース 飛鳥-4
船に乗るなんて、家族で湖のボートに乗ったとき以来だと思う。 と言っても、それは本当に家族単位でしか乗れない小さいもので、こういった何十人も乗れる客船とは全くの別物なのだけど。 「この船で、向こう岸の街まで?」 リンを見る。旅にふさわしい動きやすそうな服装に、昨日貰ったア...
宮間 怜一
2023年3月5日
クベース 飛鳥-3
翌日。春間近の晴れ空は色が薄い。 ここの通りには服飾品や武器防具の店が並んでいるのだと聞いた。今日は丸一日かけて、あたしの旅支度を手伝ってくれるらしい。 あたしはと言うと、当然と言ってしまうと悪いのだが、とにかくこっちの世界のお金がない。諸々の資金がリンとチェリッシュの...
宮間 怜一
2023年3月5日
クベース 飛鳥-2
『異世界』に来る前のあたしはどうだったかというと、特別なことの何もない普通の中学生だった。 他の誰かほど頭はよくないし、他の誰かほど運動もできないし、話が上手なわけでも可愛いわけでもない。それでいて他の誰かほど、それらができなさすぎるというわけでもない。テストの点数はいつ...
宮間 怜一
2023年3月5日
クベース 飛鳥-1
夢の始まりは夜の始まりだ。 だからあたしの物語はいつもこの夕景色から始まる。 視界にあるのは太陽が沈みきったばかりの空。藍とオレンジ色で彩られた海。あたしは港にぼんやり立っている。 潮の香り。酔ったように浮つく身体。振り返れば西洋風の街並みに街燈が灯り始めている。星の...
宮間 怜一
2023年3月5日
最後の旅のはじめの夜
夢の中でも夜は来る。 船の軋む音。波の音。まだ二人だけの客室は静かだ。 これから、長い旅になる。あと五人もの仲間を迎えて、色々な街を巡って、修学旅行みたいな毎日を過ごすんだ。 そうして旅路の果てに、憎き悪役を倒したらもう終わり。あたしは現実世界に戻って、何もなかったみたいに...
宮間 怜一
2023年2月18日
夢見月の恋人
「……琳」 「うん?」 「まだ起きてる?」 「起きてるよ」 「……そっち行ってもいい?」 「そっち?」 琳は寝返りをうってこちらを向き、自分の布団を持ち上げた。 「ここ?」 許されるままに琳の懐にすっぽりと収まる形になる。布団の中は琳の体温が移っていて暖かい。琳は背も高...
宮間 怜一
2020年10月21日
写真とケータイ
露店で売っていた菓子を口にしながら街を歩く。談笑する六人の後ろ姿。 たぶん今日の夕方くらいの写真だ。 シャワーを浴びて部屋に戻ると、そんな画像を映した小さな機械を飛鳥が眺めていた。 「それ、写真機だったの? 電話だと思ってた」...
宮間 怜一
2017年6月1日
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