少女が望んだのは『主人公』だった。
どこをとっても他人より優っておらずどこをとっても他人ほど劣っていない平凡な自分が、
主役になれる世界を望んだ。
かくして『世界』は少女の願いを聞き、舞台を用意した。
夢の中、少女には三人の友人がいた。三人が羨むような、素敵な恋人も。
少女が眠りにつくたび、視界には夕暮れの教室が広がる。
別段少女は漫画のような大冒険は望んでおらず、
結局自分を愛してくれる幾人かの人形を用意しただけで満たされた。
一度は。
そのうち少女は不安になった。それは少女自身が人形たちを愛したがゆえだった。
少女の理想通りに設計された親友たちは、当然少女から見て魅力的な人間だった。
放課後の教室には自分と友人と恋人だけ。
少女の視点、五人の中で自分が誰よりも醜く浅はかだった。
少女は人型を追加した。それは自分より愚図で何もできない劣等生だった。
少女は自分と劣等生を比較させ、自分の優位性を証明しようとした。
最底辺を回避すれば愛しい友人たちに飽きられる可能性も減るだろうと信じた。
少女は劣等生を貶めることに躍起になっていった。
「そういうの、やめた方がいいよ」
それは最も親しい人形の言葉だった。
「最近ちょっとおかしいよ」「澱付が可哀想だよ」
そういう心配の言葉を、少女は自分を否定する言葉だと受け取り逆上した。
親友役を振り切って廊下をどすどす歩いていると、空き教室に人影を見る。
それは3人の友人で最も女らしい人形だった。
「あのね、どうしても聞いてほしかったの。あなたが好き」
恋をするのも納得だ。誰もが羨むような恋人を創造したのだから。
きっとふたりはこの後付き合いだすに違いない。
自分よりどう見たってそっちの方がお似合いだ。
ふたりに気付かれないように逃げ出すと、階段で鉢合わせたのは劣等生。
陰気な奴だった。陰気な奴が陰気な顔でこちらをじろじろ見降ろしている。一層気分が悪い。
「なによ」
「別に。――可哀想だなって」
人形は動かなくなっていた。
階段から突き落とされた衝撃で首はおかしな方向へ曲がり、再起不能になっていた。
脈の測り方がこれで合っているかはわからない。そもそもこいつらに脈が存在するのかも知らない。
少女は死体の横に座り込んでいたが、やがて立ち上がる。
思いついたのだ。この悪夢を終わらせる方法を。
憎たらしい女を殺した。
女を庇った男を殺した。
教室に来た女にあんたも死ねと言ったら身を捧げてきた。
処刑を終わらせたところで何かがおかしい感じはしたけどもう他に方法がなかった。
最後の一人が悲鳴を上げた。
親友の首を絞めながら、少女はぼろぼろ泣き続けた。
この世界から、役者を消し去る。
そうすればこの最悪な舞台は続けようがなくなるだろうと思ったのだ。
自分は何を間違えたんだろう。どうすれば幸せなままでいられたのだろう。
『次は』どうすればいいだろう。
その後少女は五人の登場人物をもう一度造り直した。
細々とした設定を加えて補正し、話の流れが気にくわなくなったら殺した。
繰り返した。繰り返した。
少女は終わらない悪夢に囚われている。
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