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クベース 幕間

「僕の名前はシュロ・マリアン。この世界を滅ぼさんとする魔王さ」

 この常に眠そうなツラを最大限キリッとさせて奴が放った渾身の決め台詞に対し、『そんな全身ユニクロみてえな恰好した魔王がいるか』とうっかりバッチリツッコミを入れてしまった結果、魔王陛下はすっかりしょげてしまわれた。


 先ほどまでのこいつの話をまとめると。ここは眠りにつくことでアクセスできる夢の世界で? それも今いるのは俺ではなくクラスメイトの天峰の夢の中で?

「天峰の、天峰による、天峰のための夢世界、みたいな感じなんだっけ?」

「大体そんな感じ~……世界観、登場人物、ストーリー、すべて飛鳥ちゃんの思いのままというわけ」

 あーやっちまった。あからさまにテンションが低い。こういう誰に訊かれなくても喋り続ける事情通ぶった人間から情報を搾れるだけ搾り取るのが今時のセオリーなのに。

 ぶっちゃけ自分の状況がわからなすぎる。地下通路っぽい道を通って、そっから直通でこの建物に入り、こいつの自室と思われるこの窓のない部屋に案内され、常人か狂人かわからんこいつの発言しか情報源がないのはまずすぎる。異世界だなんだと言ってはいるが俺はまだろくに異世界らしい風景を見れてさえいないのだ。どうにかもうちょっと諸々説明してもらいつつ、部屋の外に出させてもらい、こいつ以外の夢世界の住民? か天峰本人と接触できないものだろうか。

「いやまあ『魔王』はちょっと表現を盛ったんだけど……飛鳥ちゃんの最終目標が僕である以上、僕って『ラスボス』に相当するポジションではあるんだよね」

「あ、そんなRPG世界観なん?」

「そう。飛鳥ちゃんは僕のことが大嫌いでね、昔は学園ものみたいな舞台設定だったのにいつの間にか『僕を倒す。そのために仲間を集める旅をする』みたいなシナリオになってたよ」

「勇者天峰の冒険かぁ……」

 頭の中で王道RPGの主人公と天峰の顔のコラージュを作る。コスプレだなあ。


「ちなみにどの辺が魔王っぽくなかった?」

「は?」

 また唐突に話が変わる。いや戻ったのか? 奴はやけに真剣にこちらを見つめている。脊髄で返したような台詞が随分と根に持たれてしまったようだ。

「飛鳥ちゃんはこの僕に『ラスボス』の役を与えた。飛鳥ちゃんが求めるなら僕はその役を最大限演じたい。見劣りのしない悪役になりたいんだ。君は、僕を見て全然魔王っぽくないと思ったんだろう? じゃあ魔王とかラスボスらしさってなんだろう? 僕はどうしたらもっと悪役っぽくなると思う?」

 ……ほう? まだ何もしていなかったのにご機嫌が回復している? それどころか、天峰と仲のいい誰かと俺を間違えた挙句詫びのひとつもなく自分の事情ばっか話していたこいつが、俺に返答を求めている? 表情に乏しい顔に心なしか期待の感情がこもっているのが伺える。……あのユニクロ発言で?

 乗るべきか、この波に。仰々しく咳をする。今から俺はアニメ学第一人者。そういうロールプレイでいこう。

「あー、まずだね、地味すぎる」

「地味」

「そう」

「でも悪役といったら黒い服じゃない?」

「それはそうだろうけど黒けりゃいいってもんじゃねえだろ。現状のあんたの恰好は浪人生だ」

「それは威厳がないな……」

「そう、威厳だ。カリスマとも言う。あんたにはそれがない。なんか凄そうとか、強そうとか、偉そうとか、物語の締めくくりの敵に相応しい風格が要る」

「風格、カリスマね。そうか、そういうものが足りていないからうちの部下たちも利かん坊なんだな」

「おっ、いっちょ前に部下をお持ちで?」

「よくいるでしょう? 悪の組織の幹部とか四天王みたいなの」

「素晴らしい。そいつらが強く魅力的であるほどその上にいるあんたも箔が付く」

「だよね! 良かった」

「ちなみにその部下というのは何処にいるんだね?」

「この時間なら各々の部屋にいるかな? あとで屋敷を案内するつもりだったからそのときに紹介するよ」

 よしよしよしかなり食いつきがいいぞ。情報も入ってくる。この建物は屋敷? の形態をしており、こいつ以外の異世界人が複数人住んでいるんだな。

「そういう訳でそろそろ外に……」

「ねえねえ、せっかくだからこれ使って」

「あん?」

 そう言って奴が書類の山を崩しながら取り出したのは、クリップのついたバインダーだった。バインダーには紙が二枚挟まれていて、上はトレーシングペーパーのような薄い紙、下の紙にはシンプルだがバランスのとれた絵柄で目の前にいる男の全身図が描かれていた。

「あんた絵うまいな……で何これ?」

「描いてみてくれないか、悪役っぽい衣装」

「……俺全然絵描けないんだけど!?」

「大丈夫、君の案を元に補正してくれるから。試してごらん」

 言われるがままに、下の絵の身体に沿って適当にTシャツを描く。すると簡易な変身エフェクトを伴って奴がTシャツ姿に変化した。

「どう? 面白いでしょ」

 変わらない表情の変わりにポーズでドヤァを表現している。唐突に非現実要素が出てきたが、どうやらこの紙とペンはゲームでいうキャラクリを行える端末のようだ。つまり、これでこいつをぼくのかんがえた最強のヴィランにしろと? 俺の異世界観光はこいつを満足させるまで永遠に始まらないらしい。つくづくろくでもない話に巻き込まれたものだ。

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