ナバト 有羽-2
- 7月1日
- 読了時間: 3分
「……一応訊くけど、あのおねえさんってさぁ」
「前に話した『部下』のひとりだよ」
「弟ないし息子が家にカノジョ連れてくんのを楽しみにしてるようなノリだったけどラスボスの威厳大丈夫そ?」
「足りてないんだよねえ、威厳」
「深刻ですなあ」
そう、部下だの悪の幹部だのというからには、もうちょっと戦闘のできそうな感じを想像していたのだ。それがあんなにも朗らかで、そのうえ横からあんなこと言われたりなんてしたら。
「先に話しておきたいことがあったのを忘れていてね」
「なに、あのおねえさんになにか秘密が?」
釣られるだろうそれは。一応こいつもじきに引きこもりモードを解除する予定だというのがわかったので、脱出はいったん急がないものとする。
「どちらかというと君に秘密にしてほしいんだ。僕たちが話しているような、世界の成り立ちみたいな話はね」
「へ? なんでまた」
「そうだなあ、まずは彼女たち、『夢世界の住民』とは何者か、という話からしようか」
言われてみればその辺の説明は受けていなかったか。どうもこの世界は単なる別世界ではなく『天峰のための世界』なのだという話は再三聞いた。ではそこで生きる異世界人とは何か?
「……何者なん?」
「夢世界は飛鳥ちゃん、即ち現実人の理想をもとに構築される。この不思議な空間を箱庭にして、現実人の采配で木々を生やし、建物を配置し、人間(ひと)を住まわせる。夢世界の民とは、この箱庭で展開される物語の登場人物。言ってしまえば架空のキャラクターさ」
「……天峰のオリキャラってこと?」
「そういうこと。ただし厳密には飛鳥ちゃんが外見や内面を手ずから設定したのはごくわずか。彼女が旅の仲間として引き連れている数人のみだ」
「じゃあ後の人間は?」
「夢世界側による自動生成だね。キャラクターの肉親や友人、街にいるモブの民衆。それらは飛鳥ちゃんの定めた既存設定に矛盾しない範囲でランダムに作られる」
「まあどうあれ架空の人間である、と」
「そう。設定上はこの異世界で生まれ育った人間。その実、飛鳥ちゃんや夢世界の生み出したつくりもの。自分がモブの母親と父親から生まれたと信じている生き人形。そんなところかな」
「さっき創らされた服みたいにポンと?」
「さっき創ってもらった服みたいにポンと」
「さっきのおねえさんも?」
「あの娘も」
「あんたも?」
「架空のキャラクターなのかという意味ならそう。モブの胎から生まれたと思っているのかという意味なら否だね」
「親のキャラはいないってこと?」
「強いて言えば飛鳥ちゃんがママということになりますね」
「言い方キモ……」
つまり、おねえさんはどうかわからないが、こいつは天峰お手製のオリキャラであると。漫画家先生が時折『キャラクターが勝手に動き出す』なんて言うのは耳にすることがあるが、勝手に動き出した結果がこれだと思うと天峰の苦労も偲ばれる。
「まあそういうわけで、他の子たちは基本的に自分が虚構の存在だと知らないんだ。そこの意識を意味もなく揺るがして、挙動が変わってしまうのは不都合だからできればやめてほしい、というお願いだね」
「……逆にあんたは何で『天峰がママ』だって認知してるわけ?」
「僕は飛鳥ちゃんのことなら何でも知っているのさ」
「……やっぱ言い方キモいなあ……」



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