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ナバト 有羽-2

  • 宮間 怜一
  • 3月9日
  • 読了時間: 3分

「なんだそれ」

「よくあるでしょこういう水晶玉。今でない時間や、この場でない場所を遠隔で覗ける感じの。……宙に浮く画面とかの方が今っぽいかな?」

「いやどっちでもいいけど」

 どうやらこいつは気遣いというものを覚えたらしい。俺がいつまで経っても外に出れないことに対して文句を言い続けていたから、外の景色を見られる手段としてこの水晶玉を引っ張り出してきたようだった。

 水晶玉に映し出されているのは森の中。霧雨で遠くの方はふんわりと霞んで見える。水彩で描かれた絵本のような景色だ。普通の草木に混じっておおよそ生態の予想つかない歪んだ木や変な実のなった木が生えている辺り、夢の中らしいデタラメさを感じる。

 卒業式以来、数日ぶりに見た天峰は、別段普段と変わらない様子だった。上着の裾から覗くスカートや装飾を見るに多少ファンタジーらしい華やかな服は着ているのだろうが、そのくらいだ。

「それでこちらが飛鳥ちゃんのお仲間ですね」

「ほう」

 シュロの声に呼応するように、カメラが移動する。なるほど、現実の中高生にはまずいない系統のイケメンだ。くっきりとした目鼻立ち。ひとつ結びにした長い髪。長身でスタイリッシュ、それでいて大人の女性のような優美さもある。そんな青年は天峰と相合傘しながら人気(ひとけ)のない森の中を進んでいる。音声はないがイチャついているのは察せられる。まあ俺たち年頃の少年少女の願望なんてものは得てしてそんなものだろう。

「まだ一人目しかいないみたいだけど、この感じなら二人目も今日明日中にはエンカウントするんじゃない?」

「なんでわかんの?」

「今までそうだったから」

「今まで?」

「簡単に言うとループものさ。飛鳥ちゃんは自分の考えたストーリーを、時々改変・改良を加えながら、シミュレートしてはリセットし、冒頭からやり直している。繰り返すうちにキャラクターの登場順やタイミングはある程度固定されてきたんだ」

「俺、ゲームの周回あんま好きじゃないんだよな。よく飽きねえこった」

「完全に一緒ではないからね。さっきもちょっと話したけど、飛鳥ちゃんが特に決めてない箇所に関しては結構ランダムでさ」

「ふーん、んで次出てくんのはどんな人?」

「前回と同じ順番なら武闘派の青年だよ。――君は彼らに興味があるの?」

「いやーとりあえずあんた以外の異世界人を見たかっただけなんだけどさ――天峰はすげえ難しい顔してんのは何?」


「ちょっと最近は今回のための仕込みに集中してたから、詳細がわからないんだけど――どうも前回の試行で彼は異常行動を起こしたみたいだね」


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