時を同じくして俺は、妙な男の手によって俗に言う『異世界』なる場所に拉致誘拐されていた。
誓って言うが、俺はトラックに轢かれるような場所にはいなかった。昨今のラノベあるあるの異世界転生をするようなフラグは何一つ立てていない。俺は先日晴れて市立夢見ヶ丘中学校を卒業し、高校に入学するまでの長く短い春休みを全力で謳歌すべくポテチを食いながら漫画を読んでいるところだったのだ。
「実は夢の中なんだよね」
それを崩したのはこの男。
外見の描写を試みるが、これといってアニメ映えするほどの派手な外見はしていない。髪が瞳が明るいからかろうじて純正の日本人でないように見えはするが、服装が地味すぎる。なんなら大学生くらいだったらこれくらいの髪色にしている人間も普通にいそうな気がしてきた。
まあこいつの国籍はともかくとして、ちょっと混乱していていまいちちゃんと憶えていないのだが、こいつはそこそこ高い階にあるはずの俺の家にぬるっと不法侵入しつつ声をかけてきて、俺のクローゼットを勝手に異世界の連絡通路にして俺を自分のねぐらにお持ち帰りしよったのだ。トンデモ現象は既に起こっている。もうこれは異世界案件に巻き込まれてしまったのだと無理やり納得して、こっちの反応をさして伺いもせず独り言のように喋り続けるこの男の台詞から俺は今後のなりふりを決めねばならない。
「夢って眠って見るあの夢? ここが?」
「そう、その夢」
「じゃあなんだ、俺は漫画読んだまま寝落ちしてこんな謎な夢を見てるって言うのか?」
「いや、僕はちょっとした裏口を使えるんだ。とある少女の夢の中、そこに君を招待している形さ」
「ほー、さっきのアレが裏口ねえ。してその寝ぼすけはどこのどちらさんで?」
「天峰飛鳥。君のクラスメイトだよ」
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