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ナバト 飛鳥-2

  • 宮間 怜一
  • 3月9日
  • 読了時間: 3分

 暗くなるにつれ、森は姿を変えてゆく。普通の木々に混ざって生えていた妙な形状の細い木は、景色と反比例するように少しずつ柔らかな光を灯しはじめた。

「……これって街灯? それとも木?」

「たぶんそういう種類の木なんじゃないか? 確かそのまんま街燈樹(がいとうじゅ)って名前だったはず。加工してランプや武器にしたものを見た覚えがあるよ」

「魔法の杖とか?」

「そうそう」

 なるほど、そういう視点で見ると、この変な木も案外面白いデザインかもしれない。この先で出会う仲間のひとりに、魔法使いの娘がいる。せっかくなら、あの子には可愛い武器を持たせてあげたいものだ。

 とはいえ、今はまだあの子のことを考えている場合ではない。まずはミスカだ。

よほどのことがない限り、彼はあたしたちに協力してくれるとは思うのだが、リンやチェリッシュたちの挙動を考えるとミスカもイレギュラーな反応を示してくるかもしれない。なんだか緊張してきた。ミスカはちゃんとあたしを信用してくれるだろうか。少し怖い。たぶん露骨に媚を売ったり無理やりシナリオ通りに話を進めようとするのはマイナスになると思うけど、じゃあ何をすればプラスになるのかというは正直あまり見当がついていない。味方は早く増やしたいけどこんな状態で会いに行って大丈夫なんだろうか。なにかが騒がしい。心臓が脈打つような音。いやこれ本当に鼓動か? どっちかというと震動なんじゃ――

「聞いてる?」

「えっごめん、何?」

 リンの声にハッとする。いつの間にか考え事に夢中になっていたようだ。慌てて意識を自分の外に向けると、先程の騒がしさがよりはっきりと感じられるようになる。

「傘持って、下がって、そこの木の陰にいて。静かにね」

 リンはあたしを道の外へと誘導すると同時に、左手から剣を造り出す。リンの能力(ちから)は影の能力。傘と同じく光を全く通さない、刀身も柄も真っ黒な剣の向こうには、元の生き物が想像つかないような歪な造形の、巨大な骨のバケモノがいた。

「何アレェ!!!?」

「あっ見るのは初めてか、あれが魔物」

 初めてではない! 今回の旅では初めてだけど、過去のループでは幾度となくこういった魔物と呼ばれる生き物に遭遇してきた。でも、これまでのどの魔物もいま目の前にいるバケモノほど大きくなかったし、ここまで不気味なデザインもしていなかったはずだ。

「デッ、デカくない!!?」

「大丈夫、大きいけどそんなに強くないよ」

 余裕そうな口調でリンは間合いを詰めていく。敵の連続攻撃をひらひらと避けていく様子を見るに、本人の見立て通り「大丈夫」なのだろうけど……

そうしてリンがトドメを刺そうと、大きく剣を振ったそのとき――

リンの剣よりも迅く、別の刃がバケモノを薙ぎ倒した。


 ずずん、と音を立てて魔物が倒れ、大きな槍を携えたシルエットが姿を現す。

「ありがとう、助かったよ」

 リンの声に人影は振り返る。恐らくリンと同じように夜闇の中で光っているはずの髪はフードで見えず、細かな傷がついて皮膚の薄くなった目元だけが、幽かな光を発していた。

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