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お前の旅の目的は(3)
「『俺の旅』じゃなくて、『芽留の旅』なんですよね」 「芽留の?」 「ええ。俺と芽留はいとこ同士なんですけど、芽留の両親がちょっと気難しい人たちで。外で遊ばせない、旅行やお出かけもしない、勉強や習い事は家庭教師、みたいな」 「それは……」 「厳しいっていうよりは、過保護なんですよ。芽留って、お世辞にも丈夫な方ではないし。怪我したり、誰かに嫌な目に遭わされたり、なんていうのがあったらコトじゃないですか。一人娘だからなおのことです。 逆に俺なんて超奔放に育ったクソガキでしたからね! 庭の木に登って・芽留が真似しようとして・怒られ、虫を大量に捕まえて持っていき・叔母さんを卒倒させ・怒られ……」 「……嫌がらせ?」 「いや、蝶とかトンボだったんですよ! きれいな奴! 実際、芽留本人は虫好きだったんで喜んでました」 「まぁ男児のプレゼントはそんなもんか……なんの話してたんだっけ」 「あっそうだ、芽留の話ですよ。虫もそうですけど野の花とか、旅行の写真とか、『外』のものを持っていくと芽留は喜びました。自分ではなかなか体験できないから。 それで、あるとき言い出
2025年6月3日


お前の旅の目的は(2)
「アタシ? アタシはねぇ、いくつかあるけど、やっぱり一番の要因は飛鳥かしら」 「そうか」 「今までも、友達や親しい人がいなかったわけではないんだけどね。こんなに気の合う人って、なんだか久々で」 「……ずっと前から、友人だったみたいな感覚?」 「そうそう! ミッスも心当たりある?」 「なんとなく」 「不思議な子よね。距離感がちょうどいいのかしら。そんなだったから、飛鳥が旅立つって聞いたとき、なんだかとても名残惜しくって。もっと一緒にいたい、この子と言葉を交わしてみたいって思って、ついてきちゃったの。押しかけたみたいになっちゃったかしらね」 「いや、押しかけたって言うならどっちかというと」 「……グレイ?」 「グレイ」 「そんなことだと思ったわ」 「まあ、飛鳥やリンはお前を歓迎している。加入は何も問題ない」 「アナタは?」 「俺は、よほどのことがない限り口出ししない」 「あ、もしかしてアナタ、傭われなの? 護衛役?」 「それと案内役」 「そうだったのね。リンは? てっきり旅慣れしてると思ってたわ」 「陸路の旅には疎いらしい」 「そういうことね。あっ、
2025年6月3日


お前の旅の目的は(1)
「お前、なんでついてきたんだ」 「なんでって、そりゃ金のためよ」 「……怪物駆除か」 「おう。──オレはバカだし、ナリもガキっぽいから、町の大人にゃナメられててよ。町じゃあ働いても、ろくに稼ぎを貰えねェ。そんなオレに、バカでもガキでも金を稼げる、実力主義の世界を教えてくれたのはお前だろ」 「……それで?」 「バカでも、っつったって、ド素人がひとりでやるには取っかかりがねェのよ。戦い方に、クエストの貰い方、道具は何が要るのかとか」 「あー、案内所はわかるか? 青い看板の。あそこに行けば初心者向けの案件を紹介してもらえるぞ」 「わかるわかる。でも初心者向けっつーことは、報酬も大したことねーんだろ?」 「まぁ、緊急性が低くて、技術のない人間がひとりで請けられるような案件となるとな。それだったら、頭数の要る案件を中級者に交じってこなしていく方が、得られるものは多いだろう」 「だろ? ほら合ってんじゃねーか」 「……『お前が言い出したんだから、お前が面倒見ろ』と?」 「『目で見て盗むくらいはさせろ』と」 「……長期的なこと考えるなら、他の奴探した方がいいぞ
2025年6月3日


かたちの違う 誠実な人
『好きだよ』と、そいつは軽々しく口にする。 曲がりなりにも異性で、俺には散々『お前が嫌いだ』と言われていて、周りには自分を好いている人間が何人もいるにも関わらず。 「なんで、よりによって俺に言う」 「というと?」 「誰とは言わないが、もっと言うべき相手ってのがいるべや」 「むしろ相手は選んでいるぞ?」 「はあ?」 いつもと変わらず涼しい顔で、 「夕葉だから言っているんだ」 嫌味なく真っすぐ俺の目を見つめて、そんなことを言い放つ。 「そ〜〜いう台詞を『他人を口説きながらじゃねえと喋れねえのか』 と言ってんのよ俺は」 「口説いてはいないよ」 「じゃあ何よ」 「言いやすいんだよね。私のこと嫌いだから」 「はあ?」 本日二度目の『はあ?』が出た。こいつと話すと何回言っても言い足りない。 「私のこと嫌いっていうのはさ、ちょっとやそっとじゃ揺るがないでしょ」 「そりゃあな」 「飛鳥には前にちょっと話したんだけど、私かっこつけでさ。それってつまり相手の心証を気にする方なんだけど」 「おう」 「私のことがずっと嫌いなら、多少のことで私の印象は変わらない
2025年4月20日


ナバト 飛鳥-2
暗くなるにつれ、森は姿を変えてゆく。普通の木々に混ざって生えていた妙な形状の細い木は、景色と反比例するように少しずつ柔らかな光を灯しはじめた。 「……これって街灯? それとも木?」 「たぶんそういう種類の木なんじゃないか? 確かそのまんま街燈樹(がいとうじゅ)って名前だったはず。加工してランプや武器にしたものを見た覚えがあるよ」 「魔法の杖とか?」 「そうそう」 なるほど、そういう視点で見ると、この変な木も案外面白いデザインかもしれない。この先で出会う仲間のひとりに、魔法使いの娘がいる。せっかくなら、あの子には可愛い武器を持たせてあげたいものだ。 とはいえ、今はまだあの子のことを考えている場合ではない。まずはミスカだ。 よほどのことがない限り、彼はあたしたちに協力してくれるとは思うのだが、リンやチェリッシュたちの挙動を考えるとミスカもイレギュラーな反応を示してくるかもしれない。なんだか緊張してきた。ミスカはちゃんとあたしを信用してくれるだろうか。少し怖い。たぶん露骨に媚を売ったり無理やりシナリオ通りに話を進めようとするのはマイナスになると思う
2025年3月9日
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