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ナバト 有羽-2
「なんだそれ」 「よくあるでしょこういう水晶玉。今でない時間や、この場でない場所を遠隔で覗ける感じの。……宙に浮く画面とかの方が今っぽいかな?」 「いやどっちでもいいけど」 どうやらこいつは気遣いというものを覚えたらしい。俺がいつまで経っても外に出れないことに対して文句を言い続けていたから、外の景色を見られる手段としてこの水晶玉を引っ張り出してきたようだった。 水晶玉に映し出されているのは森の中。霧雨で遠くの方はふんわりと霞んで見える。水彩で描かれた絵本のような景色だ。普通の草木に混じっておおよそ生態の予想つかない歪んだ木や変な実のなった木が生えている辺り、夢の中らしいデタラメさを感じる。 卒業式以来、数日ぶりに見た天峰は、別段普段と変わらない様子だった。上着の裾から覗くスカートや装飾を見るに多少ファンタジーらしい華やかな服は着ているのだろうが、そのくらいだ。 「それでこちらが飛鳥ちゃんのお仲間ですね」 「ほう」 シュロの声に呼応するように、カメラが移動する。なるほど、現実の中高生にはまずいない系統のイケメンだ。くっきりとした目鼻立ち。ひ
2025年3月9日


ナバト 有羽-1
「あのさあ、なんでまたこの部屋なん?」 前回あれからどうなったかを、読者諸賢にはご説明しよう。 シュロ・マリアンというこの変な男は、この物語における倒すべき黒幕・ラスボスとしての役目を全うすることを望んでいるらしい。ところがその意気込みとは裏腹に、この寝呆け野郎には服装から何から、およそ悪役らしい要素がどこにも見当たらない有り様だった。それをうっかりバカ正直に指摘してしまった俺は、どうもこいつにキャラデザイン分野において自分より上手の存在だとみなされたらしく、キャラクリ用の不思議装置を手渡され、『悪役』のディレクションを一任されたのだ。 このキャラクリ装置が予想外に扱いやすかったのが悪い。 俺の想定としては、ドンキのハロウィン衣装なみに安っぽい適当な魔王をでっちあげてお茶を濁し、とっとと別の話題に移るつもりだった。そのはずだったのだが、この装置にざざっと描いた服や装飾が、まさしく脳から直接出力したかのようにいい感じに具現化され、あいつというマネキンに被さるのが面白すぎて、興が乗ってしまったのだ。 まず角を生やした。よくある山羊だか羊だか
2025年3月9日


クベース 幕間
「僕の名前はシュロ・マリアン。この世界を滅ぼさんとする魔王さ」 この常に眠そうなツラを最大限キリッとさせて奴が放った渾身の決め台詞に対し、『そんな全身ユニクロみてえな恰好した魔王がいるか』とうっかりバッチリツッコミを入れてしまった結果、魔王陛下はすっかりしょげてしまわれた。 先ほどまでのこいつの話をまとめるとすると? ここは眠りにつくことでアクセスできる夢の世界で? それも俺ではなくクラスメイトの天峰の夢の中で? 「天峰の、天峰による、天峰のための夢世界、みたいな感じなんだっけ?」 「大体そんな感じ~……世界観、登場人物、ストーリー、すべて飛鳥ちゃんの思いのままというわけ」 あーやっちまった。あからさまにテンションが低い。こういう誰に訊かれなくても喋り続ける事情通ぶった人間から情報を搾れるだけ搾り取るのが今時のセオリーなのに。 ぶっちゃけ自分の状況がわからなすぎる。地下通路みたいな謎の道を通って、そっから直通でこの建物に入り、こいつの自室と思われるこの窓のない部屋に案内され、常人か狂人かもわからんこいつの発言しか情報源がないのはまずい。異
2024年12月11日


クベース 有羽-2
「天峰ってあの天峰? 元同じクラスで、ギャルでもオタクでもなく、特筆することの特にない、どこにでもいるようなあの天峰?」 「うん、その天峰飛鳥ちゃん」 天峰飛鳥という人間に対する印象は、いま語った通りだ。普通オブ普通。夢の中だなんだと言っていたが、こんなファンタジー超常現象を引き起こせるような人間には到底思えない。 「それは……何? この謎空間でお早い同窓会でも開くわけ?」 「いや? 呼んだのは君ひとり」 「何故に」 「仲良いでしょ?」 「いや全然。グループワークでもない限り全く喋らん」 「あれ? 思い違いだったかな。まぁいいや」 まぁいいやとはなんだまぁいいやとは。こちとら異世界トリップしとんのだぞ。 つまるところ俺は天峰と親しい相手だと勘違いされてここに連れてこられたのか? 何を以てそう思ったんだ。つーか天峰の何なんだこいつは。何で勝手にカップリングにされてるわけ? 俺と天峰の接点って何? なんか一回ぐらい隣の席になったような覚えはあるしその時くらいは多少会話したような気もしないでもないけど。いやそもそもこの男の思考回路に理屈というもの
2023年3月5日


クベース 有羽-1
時を同じくして俺は、妙な男の手によって俗に言う『異世界』なる場所に拉致されていた。 誓って言うが、俺はトラックに轢かれるような場所にはいなかった。昨今のラノベあるあるの異世界転生をするようなフラグは何一つ立てていない。俺は先日晴れて市立夢見ヶ丘中学校を卒業し、高校に入学するまでの長く短い春休みを全力で謳歌すべくポテチを食いながら漫画を読んでいるところだったのだ。 「実は夢の中なんだよね」 それを崩したのはこの男。 外見の描写を試みるが、これといってアニメ映えするほどの派手な見た目はしていない。髪と瞳が明るいからかろうじて純正の日本人でないように見えはするが、ファンタジーものとしてはあまりに服装が地味すぎる。なんなら大学生くらいだったらこのくらいの髪色にしている人間も普通にいる気がしてきた。 まあこいつの国籍はともかくとして、問題はこいつの登場シーンだ。 ちょっと混乱していていまいちちゃんと憶えていないのだが、こいつはそこそこ高い階にあるはずの俺の家にぬるっと不法侵入しつつ声をかけてきて、俺のクローゼットを勝手に異世界の連絡通路につくりか
2023年3月5日
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