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クベース 飛鳥-1

  • 宮間 怜一
  • 2023年3月5日
  • 読了時間: 2分

更新日:1月27日

 夢の始まりは夜の始まりだ。

 だからあたしの物語はいつもこの夕景色から始まる。

 視界にあるのは太陽が沈みきったばかりの空。藍とオレンジ色で彩られた海。あたしは港にぼんやり立っている。

 潮の香り。酔ったように浮つく身体。振り返れば西洋風の街並みに街燈が灯り始めている。星のように瞬く街灯りの下にいた、これまた星のような金色の瞳をした人と目が合った。その人に駆け寄ろうとしてあたしは、


  *


 夢を見ていると、たまに展開が飛んで全然脈絡のない場面転換が行われることがある。

 意識がぼんやりとしていて現実味がない。さっきまでこの目に映っていた星や街燈はどこにもなく、波の音は壁を挟んで遠く聴こえる。ここは屋内。あたしはベッドに寝かされていたようだ。

 視線を横に移すと、ベッドのすぐそばで誰かが本を読んでいた。本を支える指が長い。さらさらストレートの髪の隙間から、虎のような金色の瞳が見える。

 金色の目はあたしの視線に気が付くと、髪を耳にかけてこちらを覗き込んできた。

「目が覚めた?」

 低い声だった。優しくて懐かしくなる、あたたかい声。そんな声が返事を待たずに予想外のことを訊いてきた。

「君、日本人?」

「えっ」

 半ば反射的に顔を見る。日本人か、なんて訊かれるということは、この人は日本人以外なのだろうか。整った顔立ちからは外国人とも日本人とも断ずることができない。

 染めているようには見えない髪は深い赤色。漫画やゲームのキャラクターがそのまま現実に出てきたみたいだった。

「なんとなく、こっちの人と違う感じがしたから」

「えっと、うん、そうだけど……あなたは、何人?」

「私はね——」

 なんて言うんだっけ、と一瞬考え込んだのちに、国籍不明の美しいひとはにっこり笑顔でこう言った。

「『異世界人』って言うのかな?」


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