遠い昔、自分も弟もまだほんの子供だった頃、弟はよく悪い夢を見た。
涙目で朝を迎えては、年の離れた末の弟に泣きべそを見られないように、
がむしゃらに目を擦っていた。
友達を殺す夢なのだと弟は言う。
毎度同じ夢を見て、毎度同じ誰かを同じ人数同じ手順で殺し、
自分だけになって、そこで初めて、
それまで息を止めるように堰き止めていた感情が溢れて自分に流れ込んでくるのだと。
心優しい弟のために、僕はその悪夢を自分が譲り受けるためのまじないを教えた。
正直な話、まじないはでたらめだったのだが、
何の因果か弟は悪夢をめっきり見なくなり、本当に自分がそれを見るようになった。
その映像を毎日毎日再生しても、ついぞ自分は泣かなかった。
ただ、毎日毎日再生して、そのうちに映像の全てを、
人間の殺し方や殺した友人の顔を覚えてしまった。
久しく会っていなかった弟の連れを見て、僕は呆気にとられた。
夢で毎夜殺し続けた顔がそこにあったのだ。
特に彼女。そう、あまりに端正で男性とも女性ともとれる彼女。
彼女が女性だと自分は既に知っていた。
左利きだと気付いて堪らなくなった。右手は僕が切り落としたから。
夢の中で自分の目と手になっていた男は、きっと彼女に恋をしていたのだろう。
男は自分が殺した3人の誰よりじっくりと、彼女の命が尽きる様を見ていた。
僕は男と重なり合って、毎晩毎晩彼女を見つめた。
この美しい人に、僕はずっと会いたかった。
夜にふたりで会えないかと持ち掛けたところ、二つ返事で彼女は僕に応じてくれた。
もうすぐ彼女がここに来る。ああ楽しみだ。
もう一度殺させてほしい。もう一度僕に夢を見せてほしい。
僕はずっと君に会いたかったんだ。
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