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来し方のヘアピン
「あいつ、何処行ったんだ……」 旅の仲間も増え、街での買い出しは二組に分かれて行動することが多くなった。それで今日は俺とミカの二人で南東エリアの店を回ることになっていた。 周辺で最も栄えているこの街は、旅人も街に住む人間も数が多い。特にこの辺りの様々な店が立ち並ぶ通りは人の少ない時間がない。賑わう雑踏の中、あいつは自分が他の人間より背が低いことも忘れて人の波に入り込み、そのまま姿を消してしまったのだった。 買うものや立ち寄る店の名前はリストにしてあるが、これはほとんどが共用の消耗品に関するものだ。いなくなる直前に『春用の上着が欲しい』と言っていたあいつが、リストにない服屋なんかに入り込んでいたりすると流石に捜しようがない。道中でリストにある店を確認しつつ、飛鳥たちとの合流場所のある方角へ向かっていくしかないだろうか。 「ねぇ、そこのおにいさん」 ふいに後ろから少女の声がする。知らない相手に話しかけるような口ぶりにかすかに疑問を感じながらも声の方へと振り返る。 「アタシみたいなヒト、見てない?」 言葉通り、声の主が指差しているのは、自分だ
1月26日


うちの子短歌もどき
Blueskyに掲載したもの まとめ 不定期更新予定 ■飛鳥 ループする世界でまだ会ったばかりのはずのあたしと寝られる貴方 (→琳) 恋バナの好きな親友(あなた)が可愛くて 恋なんてしている暇はない! (→ミカ) いま倒した魔物を食えるか訊くな 今夜悪夢に出たらどうする (→グレイ) さよならを言うための旅だったのに なんでそんなすぐ会いに来るの ■琳 チョコレート色の目、髪はココア色 彼女はきっと甘い味がする (→飛鳥) 「ありがとう、一番じゃないけど好きよ」なんて言っても 許してくれる? (→見透) 本日は自己主張の少ない君が「海行きたい」と言った記念日 (→見透) ■グレイ なに食ってそんなにデカくなったのか訊いたら「エビ?」と言われた。食うか (→琳) 共依存対策で距離を取ろうとしたのに自ら会いに行くなよ (→夕葉) ■ミカ 「可愛くねえ」なんて言うから「あらイヤだ、見る目のない男」と返すのよ (→グレイ) ■蓮 雨の音で目を覚ますと君がいない 癖毛と戦っていたらしい (→鈴李) ■鈴李 可愛い子 ずっと年下に見えるでしょう? 化粧はこの
2024年4月26日


彼とリラ
失礼だけど、最初彼が屋敷に来た頃、彼が少し怖かった。 女の子のようなきれいな顔立ちをしていたけれど、眼帯をしていて、顔も手も皮膚がボロボロ、それを隠すように暑い季節も全身着込んでいた。 世界には魔法障害というものがあるらしい。 魔力というものは目に見えない小さな粒として空気や動植物のからだの中を巡っていて、私たちの呼びかけで何にでも姿を変える力を持っている。水の魔法を使えば魔力の粒は結び合って疑似的な水となり、炎の魔法を使えば魔力は火薬や導火線になって発火する。姿を変えた魔力は時間が経つと分解されて、また元の何にでもなれる粒に戻る──とされている。 「彼の魔法はその『時間が経つと分解される』のプロセスに何か問題があるらしくてね」 教えてくれたのは屋敷の主だった。 「鉱石の魔法でね、鎧みたいに身体を覆って戦うのが彼のスタイルだったんだけど、それをやると皮膚から結晶が生えてるみたいになっちゃうんだ。割ったり削ったりしてオフするんだけど、除去時に表皮ごと持ってかれちゃうこともあるし、例えば手や指に細かい結晶が残った状態で顔とか触っちゃうとエッジで
2023年2月22日


オーダーメイド
「髪は長いのと短いのどっちが好き?」 自分一人しかいないはずのリビングで、少女の声がした。 「どっちかといえばショートかな」 「じゃあ長くするね」 声の発生源は僕の背後、少し上の方。たぶんソファの背もたれに腰かけているのだろう。 僕が黙っていると、声は話を続けた。 「服はどっちが可愛い?」 視界の端から腕が二本生えてきて、二着のワンピースを提示する。 色白で、華奢。十代前半程度の小さな手。現状読み取れるのはそのくらいだろうか。 「白の方が似合いそう」 「黒ね」 「……」 「メイクはどういうのがお好み?」 「きっと薄付きなくらいで十分だろうね」 「そしたら苺みたいなリップにしてあげる」 「……ところで何のアンケート?」 ここまで回答したところで首をぐりっと上向きに回転させると、実体が存在していた。 兎のような紅い眸は口紅と色がマッチしている。覗き込まれると髪が降りてきて、すっかり顔の周りを取り囲まれてしまった。 「アタシ、素直じゃないの」 背もたれからくるりと身を翻し、僕の両脚に跨って、彼女は真正面から僕を見る。細い毛先は床の上で蛇
2018年8月22日
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