ナバト 飛鳥-3
- 7月1日
- 読了時間: 4分
ミスカのこと、どうしよう。
宿に着いて、シンプルなベッドに身体を預ける、束の間のなにもない時間。隣の寝台でリンは風呂上がりの長い髪を丁寧に手入れしている。
数時間前、森で出逢ったミスカは、どうやらあたしたちのことを迷い人だと捉えたらしい。町までの道のりを簡潔に教えてくれたのだが、その後はすぐに別の道へと消えてしまった。
たぶん明日、そうでなくとも遠くない未来、ミスカとはまた会うことになるだろう。元々大まかなシナリオは決まっていて、仲間になってくれるメインキャラも既に決まっているわけだけど、それをリンやミスカにどう説明するか。今まではそんなこと考えなくても勝手に話が進んでいたはずなんだけど、クベースでの様々なイレギュラーを考えるに、恐らくまた予想外のことを言われたりするんだろう。
「難しい顔してる」
くすりとリンに笑われた。
「疲れた?」
「ううん……ちょっと考え事」
覗き込みにきたリンの分のスペースを開けると、リンはあたしに倣って隣に寝転んだ。
「飛鳥はどんな仲間が欲しい?」
頭の中身が見られていたような台詞に思わずギクリと肩が揺れる。
「例えば女性がいいとか、年の近い人がいいとか」
「そ、そうだね、年は近い方がいいかな……?」
その場凌ぎの曖昧な返答だ。さっきちょっと助けてもらっただけ、ほんの短い時間関わっただけのミスカに対して決め打ちしてしまうのはいくらなんでも怪しい。ミスカの性格や能力から逆算して条件を提示することもできるけど、それをすると3人目以降の仲間のときにまた困ることになるだろう。
「……なんて言ったらいいんだろう……」
「何が?」
ぐるぐる迷走した思考の末に、結局頭を埋めている言葉をそのまま口に出してしまった。まだこんな序盤なのに、どうもヒントがないと動けない。
リンはそんなあたしを取り巻くぐるぐるのことは知る由もないが、ふーむと短く思案して、
「うまく言葉にできないときは少しズラしてみるといいよ。『どんな仲間』っていうのが難しいんだったら、『仲間になってくれた人に何をしてほしいのか』とか、『仲間とどんな旅がしたいか』みたいにね」
と言ってくれた。
どんな仲間が欲しいか。何をしてほしいか。どんな旅がしたいのか。
そうは言ってもあたしの旅、あたしの夢なんて、二回目以降はずっとただ前回の失敗に納得がいかなくて、どうにかもうちょっとマシな結末を迎えられないか、というそれだけの理由で、ひたすら前回の焼き直しをしているだけなのだ。
だから皆に何をしてもらいたいかと言われても、『そのままでいてほしい』としか思えない。あたしのために創られた、愛おしい皆。あたしじゃとても釣り合わない、優しい皆。
そもそもの現実だって、今こんな大規模な現実逃避をしてはいるけど、別に友達とケンカしたとかハブられたとかじゃないのだ。自分にさえもよくわからない寂しさや虚しさがここにあるだけ。誰にも非はない。誰も悪くない。だから夢の中に舞台を移したところで結局何も変わらない。変えたかったのは友人でも世界でもなく、自分だったのかもしれない。
「……普通にしてくれればいいんだよ」
だからあたしは、皆に要求することなんてほとんどないのだ。
「普通って?」
「帰るまでの、あとちょっとだけ。友達でいてよ」
リンは、ほんの少し意外そうな顔をした。
ささやかすぎるとでも思ったかもしれない。でもそのささやかな要望さえ、本当はあまり口にしたくない。口にしてしまうと、強制してしまう気がする。あたしのための夢世界だけど、あたしの都合のいいように皆を歪めてしまうのはもう嫌なのだ。
「友達が欲しかったんだ?」
「……うん。変かな」
「全然」
前髪を除けるように、リンの指先が額を撫でる。あたしを見つめるリンの眼差しはいつだって優しい。
「良かった、聞いといて」
「え?」
「いやあ、だって私が仲間になったばかりなのに、もう別の人が欲しいなんて言うから」
「言うから……?」
「ちょっと妬けるなと思ってたんだよね」
「ええっ……!?」
「友達ならいっぱいいた方が楽しいもんねぇ」
うんうん、とリンは何かに納得した様子だったが、あたしはまた唐突な少女漫画発言にドギマギしていた。こ、これは、シリアスになりすぎた空気を和ませようとしてくれているんだろうか?
優しそうなリンの微笑みは、口元から歯が覗くと途端にからかうような『悪さ』を含んだ笑みへと変わって見える。
コントロールしてしまう、と思うのも案外思い上がりかもしれない。



コメント